エストレヤのクラッチとシフトチェンジ改善のためオーバーホールしました

2014年式エストレヤが10年の節目を迎えたということで、クラッチカバーの中をオーバーホールしました。

元々シフトチェンジのスプリングが弱くなっていたのが気になっていたので、ちょうど良い機会です。錆びた部品も交換したいし。

またいずれ整備するときの備忘録として、クラッチプレートなどの交換方法や手順も記しておきたいと思います。

目次

現状

製造から10年目を迎えたエストレヤの走行距離は35,000kmほどです。ぱっと見は綺麗でもマフラーが錆びていたり、転けた傷跡が残っていたりと少々気になっていました。

クラッチカバーのクリア塗装は劣化し、ところどころ剥がれています。今回は外装も含めてオーバーホールしていきたいと思います。

  • エンジンオイルは予め抜いておく
  • ねじ部は油脂類を除去して規定トルクで締め付ける
  • エンジン内の鉄部品は錆びやすいため、清掃後すぐにオイルを塗布する
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マフラーの取り外し

まずはエキパイについているO2センサを緩めます。固着していますが、グッと力を入れるとパキッと音がして外れます。

O2センサリード線は右サイドカバーの中に繋がっているので、コネクタを外してからO2センサを外します。センサ部分は繊細なので衝撃を与えたり油分が付着しないように注意

次にマフラボディクランプボルトを緩めます。

エキゾーストパイプホルダも取り外します。ここはエクステンションバーを付けないと回せません。

最後に、右側リヤステップについているボルトを外せばマフラボディが外れます。

クラッチケーブル・カバーの取り外し

クラッチケーブルの調整ナットを緩め、ケーブルに十分な遊びを持たせます。

クラッチレバーのロックナットとアジャスタを一杯までねじ込んで溝を一直線に合わせれば、ケーブルを外すことができます。

レリーズレバーの奥に溝があるので、そこからケーブルを外します。レリーズレバーはレリーズシャフトに付けたままで外せます。

クラッチケーブルブラケットのボルトを2本外します。ここも固着していました。

取り外すとスッキリ。クラッチカバーを外す準備完了です。

クラッチカバーボルトはオイルフィルターカバーの中にもあるので、忘れないよう最初に取り外します。ディープソケット(8mm)は必須。

全てのクラッチカバーボルトを外し、レリーズシャフトを下方に回すとクラッチカバーが浮きます。浮かない場合は、ボルトの取り忘れがないか確認。

クラッチカバーを取り外してレリーズシャフトを確認してみると、先端が少しだけ磨耗していました。特に不調もないですしこの程度であれば交換は不要です。

もし交換する際は、少々手間がかかります。サービスマニュアルには、以下のような注意書きがありました。

クラッチレリーズシャフトは交換時、やむを得ず取り外す以外は取り外さないこと。もし取り外した場合は、必ずオイルシールを新品と交換する。

サービスマニュアル

調べてみるとオイルシールはニードルベアリングと一体になっており、専用工具がないと簡単には取り外せないようです。

クラッチの取り外し

スプリングの力が一辺に偏らないように、クラッチスプリングボルトを対角線上に少しづつ緩めます。クラッチが空回りしないよう、1速に入れてブレーキを掛けながら回しました。

両端のフリクションプレートは他のプレートと外観は一緒ですが別物です。混合しないように白いマーカーなどで印をつけて、一旦置いておきます。

忘れないうちにオイルスクリーンを取り外してパーツクリーナーで清掃。赤い異物はネジロック材の残骸でしょうか。

今回の目的である部品。左のシフトシャフトの「リターンスプリング」と「アームスプリング」、右のギヤポジショニングレバーの「スプリング」。

通常のメンテナンスであれば、このまま3つのスプリングを交換するだけでシフトチェンジが改善されるのですが、今回は磨耗具合の確認と部品交換を行います。

そのためには上に被さっているクラッチハウジングを取り外す必要があるため、30mmのソケットを用意しクラッチハブナットを外します。

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今回はたまたま電動工具があったので簡単に外せましたが、レンチで外す場合は少し大変かもしれません。クラッチホルダーがなかったため、ブレーキを強くかけて外しました。

※クラッチハブナットは緩み防止のため変形しており、使い回しはできません。必ず新品と交換します。

クラッチハウジングを取るとシフトドラムカムが現れました。1速と2速の間がニュートラルポジションになっているのが分かります。

ここで一旦、張り付いたガスケットを取り除いて綺麗にしておきます。エンジンオイルを十分に染み込ませたオイルストーンで少しづつ研磨。

スクレーパーではなかなかうまく取れなかったガスケットがあっという間に綺麗になりました。ガスケット剥がしには必需品ですね。

オイルを切らせないことと削りすぎないことに注意しながら、オイルストーンが張り付く感覚になってきたら面取り完了です。

シフト周辺部品の取り外し

シフトシャフトを抜くために、バイク左側のステップとシフトペダル、エンジンスプロケットカバーを取り外しておきます。コネクタを外すことも忘れずに。

エンジンスプロケットカバーは油汚れが著しかったため灯油で洗浄。パーツクリーナーで灯油を落とした後シリコンスプレーでゴム部品を保護しておきました。

シフトシャフトは引き抜く時にエンジン内を通るので、異物や汚れを取り除いておくと安心です。

右側のステップも邪魔なのでフレームの反対側からナットを緩めます。ステップを回してシフトシャフトを引っ張ればそのまま抜くことができます。

ポジショニングレバーも取り外したらパーツクリーナーで全体を清掃。ただし、ギアのような鉄部品は乾燥する前にエンジンオイルを塗布しないとすぐ錆びるので注意が必要です。

六角レンチでシフトドラムカムを取り外し、ボルトについているネジロック材をワイヤーブラシで取り除きます。

各ベアリングもパーツクリーナーで清掃し、エンジンオイルを塗布します。

ボールベアリングはきわめて精密に作られているため、測定に頼らずに触った感触で磨耗を判定すること。高引火点溶剤(パーツクリーナ)を使って各ベアリングを清掃し、乾燥させて(乾燥中にベアリングを回転させないこと)からエンジンオイルを塗布する。

サービスマニュアル

シフト周辺部品の交換

新品の部品と比べて磨耗具合を確認してみます。左側が中古で、右側が新品です。

シフトドラムカム、ギヤポジショニングレバー共に見た目ではほぼ変化なし。若干ローラーが回りやすくなっている程度でした。

シフトシャフトについても磨耗はほぼ見られず。形状が若干異なっているのは、現行のシフトシャフトが大替部品に変わっているためです。

思ったより部品に劣化はなくスプリングの交換だけで良さそうですが、これからも長く付き合うために新品部品に交換していきたいと思います。

新しいシフトシャフトにスプリングをつけて、止め輪(要交換)で固定します。専用工具でなくてもダイソーの「ミニ先細ペンチ」で止めることができました。

シフトドラムカムを取り付けるために、ボルトにネジロック材を数滴塗布。

シフトドラム上のノックピンとシフトドラムカムの穴を合わせてボルトを締め付けます(締め付けトルク12Nm)。

シフトシャフトのオイルシール(要交換)を新品に交換後、リップ部にグリスを塗布。

シフトシャフトを差し込みます。

ギヤポジショニングレバーにもスプリングをつけて、取り付けます(締め付けトルク8.8Nm)。

クラッチの取り付け

点検

クラッチハウジングの溝、クラッチハブの歯に段差が無いか触って確認します。ひどく磨耗しているか、溝状に切りこみが入っている場合は交換が必要です。

クラッチプレート(フリクションプレート、スチールプレート)も点検。厚さはノギス、歪みは定盤の上に置きシックネスゲージで測ることができます。

フリクションプレートの厚さ

  • 基準値:2.72 ~ 2.88mm
  • 使用限度:2.6mm

クラッチプレートの歪み

  • 基準値:0.15mm以下
  • 使用限度:0.3mm

両端のフリクションプレートは印が消えて混ざってはいけないので、結束バンドで留めておきました。

外観から識別できないとされていますが、よく見ると両端の摩擦材の色は他より濃い気がします。もし混ざってしまった際には色を参考にしてみるといいかもしれません。

点検が終わり、全ての部品をパーツクリーナーで清掃。しかし、放置したことで鉄部分に小さい錆が発生してしまいました。

錆びた箇所は真鍮ブラシやスチールウールで取り除きましたが、小さい隙間は取りきれない可能性があるので、乾燥する前にエンジンオイルを塗布しておいた方が良さそうです。

取り付け

ドライブシャフトとカラーに二流化モリブデン溶液(エンジンオイルと二流化モリブデングリスを重量比10:1で混合)を塗布。

クラッチハブナット(要交換)を新品に交換し、30mmのソケットを付けてトルクレンチで締め付けます(締め付けトルク135Nm)。

ブレーキを強く掛けても空回りするほど負荷が大きいので、出来ればクラッチホルダで固定したいところ。次回メンテナンスすることがあれば購入します。

ナットを締め付けたらスプリングシートとスプリングを装着。スプリングは傘状になっているので、外径が広い方を手前にして取り付けます。

フリクションプレート、スチールプレートの順で交互に重ねていき、最後のフリクションプレートは浅い溝にずらして装着します。

プッシャ(ロッド)の軸と先端に二流化モリブデングリースを塗布し、取り付けます。

クラッチハブとクラッチスプリングプレートの丸いマークを合わせて装着。

クラッチスプリングを新品に交換し、クラッチスプリングボルトを対角線上に少しづつ締め付けていきます(締め付けトルク8.8Nm)。

クラッチスプリングは規定値が記載されておりませんでしたので、安価な部品ですし毎回交換でもいいかと思います。

クラッチスプリングの点検

各部品を点検し不具合が改善されなければ、クラッチスプリングを交換する

サービスマニュアル

取り付け完了後、念のために後輪タイヤを回しながらシフトチェンジの動作確認を行いましたが問題なし。次はクラッチカバーの取り付けです。

クラッチカバーの取り付け

クラッチカバーは、Holtsの「塗装はがし液」で古くなったクリア塗装を剥離しました。超強力なので手袋は必須、紙コップや天然毛の筆を使うと溶ける心配もありません。

20〜30秒ほどですぐにポロポロと剥がれてくるので、最後に水洗いして完了です。

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傷がついていた箇所などを耐水ペーパー(400〜2000番)で磨き、仕上げにピカールで鏡面磨きをしました。改めて見ると形状が美しいです。

このまま使いたいところですがすぐに白サビが出てしまうので、ミッチャクロンで下地、イサムの2液ウレタンスプレーでクリア塗装することにしました。

オイル通路を圧縮空気で清掃し、ガスケットと2つのOリング(要交換)を新品に交換。大きい方のOリングはグリスを塗布して装着します。

レリーズシャフトの先端とクランクシャフトシールホルダのオイルシールのリップ部に、二流化モリブデングリースを塗布します。

オイルフィルターを装着し、レリーズレバーを下に向けた状態でクラッチカバーを取り付け、レリーズレバーを奥に回してクラッチのプッシャにかみ合わせます。

レリーズシャフトをカバーから約5mm引き出しておくと、かみ合わせやすい。

サービスマニュアル

うまくかみ合ったら、トルクレンチで対角線上に締め付けていきます(締め付けトルク8.8Nm)。

レリーズレバーの奥のボルトはクランプと共締め。

クラッチケーブルブラケットを取り付けて(締め付けトルク8.8Nm)、ケーブルは取り外した時の反対の順序で装着します。

右フロントステップと左側の取り外した部品も元に戻します。締め付けトルクは以下の通り。

  • エンジンプロスケットカバーボルト:9.8Nm
  • シフトレバー取り付けボルト(ペダル):6.9Nm
  • 左フロントステップ取り付けボルト:54Nm
  • 右フロントステップ取り付けナット:54Nm

マフラーの取り付け

マフラー、エキパイはストックしておいた新品を用意。今後錆びさせないように、耐熱ワックススプレーでコーティングしておきました。

一旦マフラーボディを仮どめ。

エキパイにO2センサを取り付けておきます(締め付けトルク25Nm)。

エキゾーストパイプガスケット(要交換)にグリースを塗布しエンジンに装着。

2枚のカラーをホルダーの間に挟み、エキパイを取り付けます(締め付けトルク16.5Nm)。ここはエンジン暖気後冷えてから再度締め付けが必要です。

フレームとマフラボディクランプボルトの間が10±5mmになるように調整し締め付け(締め付けトルク16.5Nm)。ここもエンジン暖気後冷えてから再度締め付けが必要です。

最後にO2センサリード線をコネクタに戻し、仮どめしておいたマフラボディ取り付けボルト(締め付けトルク34Nm)を締め付けて完了です。

新車のように変化

新しいエンジンオイルを入れ走ってみると、見違えたようにシフトチェンジにメリハリがつきました。見た目も走りも新車並みです。

今回の整備はマイペースで1週間ほどかかりましたがその価値はありました。何よりもエストレヤへの愛着が大きくなりました。

エンジン内はなかなか掃除できませんし、エンジンオイルをこまめに交換して現状を保っていきたいと思います。

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